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乳腺外科

日本対がん協会の調査では、2020年に乳がん検診を受けた女性は、コロナ禍の影響もあり、前年より29.7%も減少しました。 5大がんの平均では、30.5%も減少しています。この結果は、少なくとも10000人以上は「がん」が発見されていない可能性があり、このまま放置していれば、がんが進行して治療の選択肢さえ失ってしまう可能性があります。ほんの少しの勇気を持って、「乳がん検診」を受けて下さい!

北河内における乳がん診療の重点病院としての役割・覚悟・方向性

ご挨拶

大東市・四条畷市の市民の皆様、ご挨拶が遅くなりました。この度、2021年4月1日付けで野崎徳洲会病院 乳腺外科部長を拝命されました、中嶋 啓雄(ナカジマ ヒロオ)です。履歴の詳細は以下の「担当医紹介」でご覧下さい。 さて、多くの患者様より要望されていた乳腺外科のホームページ[HP]も、「乳腺外科」誕生から8か月を経て、実際の診療内容や実績も充実し、掲示できる段階にきたので、この度、UPいたします。

さて、私が「乳がん」を本格的に取り組むようになったのは、アメリカ留学から帰国後、当時の大学学長と病院長命で、「内分泌・乳腺外科学」の教室の立ち上げを尊敬する故S先生と二人三脚で行なわせて頂いたことが始まりです。そして、その当時から現在までの無数の貴重な臨床経験・研究を経て、今なお念頭に置いていることは、乳がんの多くは浸潤がんであるため、適切な初期治療後、数年を経過しても全身のあらゆる臓器に転移・再発する可能性を持っています(全身病コンセプト) 

従って、これらの転移・再発乳がんの患者さんに最適な治療を提供するためには、「全天候型(乳がん治療に必要な、基礎~臨床に至るまでの深くて幅広い知識と技術を持ち続ける)の乳腺外科医であること」、また、それらの知識・技術・臨床経験を持って、「乳がんの再発・転移で死亡される女性を1人でも救うこと!」にあります。幸い、当病院は大病院にも引けを取らない医療設備・人材・連携システムが整備されています。乳がんは、「早期診断・早期治療」を行えば、90%以上の方は助かります。どうか少しでも不安を感じたら、ほんの少しの勇気を持って、当院の乳腺外科を受診してください。

  • 乳がんの治療は、複数の乳腺外科医を実態のない「乳腺センター」という名目だけで集めても、それだけでは、安全で最適な医療を患者さんには提供できません
  • 当院では、最良の乳がん治療を展開している欧米先進国の乳がん治療の考え方に少しでも近ずくように、Medical Union overcoming Breast cancer(MUBC)という新しい診療組織形態で、診断・手術・術後治療を行っています
  • MUBCの構成は、「乳腺外科」、「消化器外科」、「乳腺病理医」、「形成外科」、「放射線診断・治療」の医師に加えて「看護師」+「薬剤師」のメディカルスタッフが主体となり、1人の[乳がん患者]を治療する際には、これらの集合(Medical Union)が適宜「チーム」となって最善の診療を進めていきます。

MUBC

乳腺外科 担当医紹介

  • 業績一覧
  • 研究助成金(一部)

乳腺外科 部長

中嶋 啓雄 (ナカジマ ヒロオ)

  • 業績一覧
  • 研究助成金(一部)
学歴・学位:
  • 京都府立医科大学 医学部卒
  • 同大学院修了・医学博士(甲448号)
専門医・指導医・研究歴:
  • 日本乳癌学会 乳腺専門医・指導医
  • 日本外科学会専門医・指導医
  • 検診マンモグラフィ読影指導者・認定医(A)
  • 乳腺超音波読影認定医(A)
  • 日本がん検診・診断学会認定医
  • アメリカ国立癌研究所(NCI/NIH)留学
  • Experimental Immnology Branch>(1991~1995年)主任研究員
学会役員等:
  • 日本乳癌検診学会評議員
  • 日本がん検診・診断学会評議員
  • 日本乳房オンコプラスティックサージェリー
  • 乳房再建責任医師・実施医師
  • 日本小切開・鏡視外科学会評議員
  • 日本Cell Death学会評議員 [設立発起人]

副院長(外科部長)

坂井 昇道 (サカイ ショウドウ)

学歴:
  • 金沢大学 医学部卒
専門医・指導医・研究歴:
  • 日本乳癌学会 認定医
  • 日本外科学会専門医
  • 日本消化器外科学会専門医
  • 検診マンモグラフィ読影認定医
  • がん治療認定医

常に追求している乳がん治療の到達目標

治療を受ける患者さんならば、誰もが願う以下の3点を常に実践しているのが当乳腺外科の特筆すべき点です。 Ⅰ:切除乳がんの精密な病理学的検索・分類、 Ⅱ:手術後長期の無再発・無転移生存、 Ⅲ:長期の整容性維持(=左右差のない乳房形状), 実際、これまで2500人以上の乳がん患者さんの手術を行ってきて、整容性も保ったまま、再発・転移もなく術後20年を経過した患者さんを診察する度に、これが私たち乳腺外科医と患者本人が願いとするゴールなんだと確信いたします。また同時に、患者さんも、ようやく「乳がんという呪縛!」から解放される時なのだと実感されます。

A:診療のアウトライン(初診~術前診断まで)

日常診療では、大学病院時代から現在までの30年以上にわたる診療経験・実績、さらには、その過程で学んだ様々な苦い経験を克服するための反省と改善をもとに、乳がんをはじめとする全ての乳腺疾患(中間病変・良性疾患)の診療を、中嶋と坂井の2人の臨床経験豊かな乳腺外科医が、常に症例毎の治療方針を検討しながら治療を進めています。一方、他臓器再発などの難治症例では、各診療科専門医、放射線治療医とともに一番安全で長期生存が可能となる治療を決定しています。そして、その実践においては、各科専門医や熟練看護師・medical staffとともに「One Team」として、迅速で最適・安全な診療を行っています

さらに高度な治療を必要とする患者においては、旧来よりの連携・信頼関係が深い、「京都大学乳腺外科」や「大阪医療センタ-乳腺外科」 などに継続治療を依頼することもできます

B:初診

初診において常に心掛けているのは、「患者さんの訴えをしっかりと聞くこと」、「できる限り、その日のうちに乳がんの可能性があるのかないのかを、マンモグラフィ(MMG)・乳房超音波(US)・視触診の結果から丁寧に説明する」、ことです。可能性がなければ、その後の定期検診を勧めます。可能性が高ければ、必要性を説明した上で、局所麻酔下針生検(CNB)か吸引式乳房組織生検(VAB)を行い、10日後にその病理結果を説明します。正常、良性ならば定期検診へ。乳がんの結果ならば、ご本人やご家族に、その後の画像検査や治療の流れ、さらには私達の実際の治療成績をパソコンでの図解と統計資料で説明し、十分な理解が得られるように丁寧に行います。

C:各種画像診断と病理生検

●MMG(マンモグラフィ):(外来での実施件数:グラフ-①

当院には、最新のフラットパネルデジタルマンモグラフィ(AMULET s)が装備されているため、これまでのCR撮影とは比較にならないほど、乳房構造の細部まで鮮明に見えます。従って高濃度乳腺に隠れた乳がんの検出も容易になりました(図-1) また、放射線被ばく線量も従来装置の約50%近くまで減り、乳房圧迫圧も軽減されているため、患者さんからは「ほとんど痛くなかった!」と好評であります。

 (図-1)

●US(乳房超音波検査):(外来での実施件数:グラフ-①

近年、マンモグラフィ(MMG)よりも、さらに重要性が増しているのが乳房超音波検査です。特に日本人女性の約60%以上の特徴である「高濃度乳腺」においては相当な威力を発揮します。当科でも、USは、乳腺超音波読影認定医師が必ず行っています。その効果もあって、MMGでは写ってこない「微小乳がん病変」が発見されることも多いため、早期の低侵襲治療で「乳がんを完治」を達成することができ、患者への大きな福音となっています(図-2)

★ただし、どの超音波装置でもよいわけではなく、乳腺画像専用のエンジンを積んでいて、常時、精度管理がなされている機器を使用しないと発見は困難です!

(図-2)

●超音波ガイド下生検(CNB,VAB):(外来での実施件数:グラフ-①

乳がんの確定診断には生検が不可欠ですが、重要なのは、「ほとんど痛みと恐怖感を与えずに数分で診断に必要な組織片を採取すること!」です。小さく柔らかな腫瘤にはCNBを、広範囲の石灰化病変や大きく固い腫瘤に対しては、局所麻酔下の吸引式乳房組織生検(VAB)を施行して確実な診断を得ています。特に、4月に導入した「EleVation」は、これまでの吸引式生検機器の多くの欠点を改善・刷新しており、あらゆる病変に対応できるだけでなく、先端に高輝度のLEDライトを装着しているため、術者は暗くした診察室においても、常にUS画像と刺入方向・角度を確認しながら、目的病変を確実に採取できます(図-3a, b)

 (図-3a)
 (図-3b)

●手術前の画像検査:【高速CT検査・高解像度MRI検査】

たとえ小さな乳がんであっても、浸潤癌で悪性度が高ければ、全身各臓器への転移の可能性はあるため、 高速CTで全身の臓器転移検索を行い、乳房内のがんの広がり診断は高解像度MRI装置【3T】で行います。さらに、転移頻度の高い骨転移の有無は、骨シンチグラフィかPET-CT検査で診断します。

●PET-CT検査

比較的増殖能の高い乳がんであると、術前の全身検索の際に、CTやMRI検査だけで、乳がんのステージや手術法を決めてしまうと、下記の症例(図-4)のように、「リンパ節転移+骨転移」を見逃してしまい、術後の治療方針も不正確になるため、術後早期の多臓器再発や転移につながる場合があります。また、転移症例の治療中においても、時期を考えて、PET-CTを施行すると、「新たな脳転移」が早期に見つかる症例もあり、この症例では、γ-ナイフにて、脳転移は寛解させることができ、長期に生存しておられます(図-5)

 (図-4)
 (図-5)
[グラフⅠ-A]
[グラフⅠ-B]
[グラフⅠ-C]
[グラフⅠ-D]
[グラフⅠ-E]

●アウトラインのまとめ

一般女性に限らず、医療従事者においても、「乳がん」は、 “発見されれば、乳房温存であろうが、乳房切除であろうが、直ぐに手術してもらえば治るがん“であると認識している方が多数おられます。
もし、そうならば、年間15000人(人口10万人対)もの「乳がん患者」さんが死亡されるわけがありません。 その最大の原因は、発見された時点で、大半の「乳がん」は、【他臓器のがん同様に、全身病の可能性が高い!】、という認識を患者も担当医師も念頭において治療計画を立てているか、いないかによります。 

乳がんに限らず、「がん治療」のあり方は、「手術の症例数を競い合い、それで病院の優劣をつける時代」、は過去の妄想です。この令和の時代は、「無再発・社会復帰・長期生存」、これが我々、乳腺外科医に求められる治療です。そのためには、上記にあげた各種検査の精度管理・全身の総合診断・精度の高い診療ができる乳腺外科医を求め、そこに受診することが助かるための一番の早道です。

D:治療のアウトライン( 精密な診断を基にした理論的手術法の選択 )

E:サブタイプ・TNM分類を基準にした手術を含めた治療方針

乳がんの確定診断が得られた後は、そのがんが大きくても、リンパ節転移の可能性が低い非浸潤性乳管がん(DCIS)か、転移の可能性のある浸潤性乳管がん(IDC)なのかを説明して、次に大きさやリンパ節転移の有無を基にしたTNM分類でのステージ(図-6)と、そのがんの性格(intrinsic subtype)を基にしたサブタイプ分類(図-7)のどれにあたるのかを説明します。そして、その乳がんの大きさと性格から、どのような手術をするのか、また、手術前後に、将来の再発・転移予防のためのホルモン療法(ET)や化学療法(CT)も術前後に両方必要なのか、どちらかだけでよいのかなどを説明します。また、術後に局所再発予防のための手術乳房への放射線照射(RT)が必要になる可能性があるのかどうかも説明します。

  (図-6)
  (図-7)

F-1)乳がん手術(基本系) 
【乳房切除術(Bt)+ 腋窩リンパ節制御】
【乳房温存手術(Bq, Bp)+腋窩リンパ節制御】

当院での「原発乳がん」の手術件数は、着任後、確実に増加してきており、2021年度は、50例を超える勢いです。同時に、手術の必要な良性疾患の手術件数も増加しています。また最近では、吸引式乳房組織生検(VAB)が必要となる症例が増加しており(グラフー①)、それに伴い、従来よりレベルの高い病理診断が可能となってきました。乳がんの手術は、大きく分けて乳房切除術と乳房温存手術があります。当科では90%以上が乳房温存手術です。その理由は、手術が必要なほぼすべての患者さんやご家族が、「可能なら自分の乳房や乳首を失いたくない、異物を入れたくない!」、と願っているからです。その希望に沿って、可能な限り「がんの根治性と整容性」を追求した乳房温存手術を行います。また、アピアランス(見た目)重視の面から、手術の切開創も乳房皮膚には一切入れずに、乳輪縁か腋窩部位の小切開からすべての操作を完了します(スキーム:1)。そのためには、長年の叡智と技術を駆使した、「内視鏡補助下乳房温存手術」(文献:①、②参照)を行います。この手術では、開発した内視鏡装置(HIROTECH・Ver2)だけでなく、狭い切開部位から目的部位までを鮮明に照らす光源が必要であり、多くの症例では「ライト付き筋鈎」を使用します。しかし、この光源の熱で熱傷を作ってしまう欠点もあるため、最近では、その曲げた形状も維持でき、一切発熱しない数ミリ厚のフレキシブル高光線量LEDライト(FREELED ™:照度:10000lk)を使用することもあります。この3本の細いライトは自在の角度・方向で使用することができるため、さらに小切開で深部までの手術操作が容易になり、根治性がより確実なものとなっております(図:8)

次に重要なのが整容性とその維持です、切除後の欠損した乳腺領域をどうして補填するかです。これまで私も含めて様々な工夫を乳腺外科のエキスパートが行ってきましたが、問題は、短期間の整容性ではなく、術後数年以上にわたって、「左右対称の形状・ボリューム・柔らかさ」などを維持できる手術でなくてはなりません。当科では、切除後の残存乳腺と乳房の皮下脂肪の厚みに応じた巧みな組み合わせを独自のメッシュ法で行うため、手術直後はもちろん、その後何年間も左右対称の整容性を維持できる手術法が確立されています。
この「整容性維持温存手術」で、最も重要なのが、左右の対称性と皮下脂肪の血流を維持する事です。そのためには、術前のUS+MRI の血流画像から、切除後の欠損部位の再建方法を一人一人の乳腺+乳房皮下脂肪の分布と血流の状態に合わせて切除範囲とメッシュ法を決定します。腋窩切開手術症例:(図-9)、と傍乳輪切開手術症例:(図-10)の5年以上経過したアピアランスです。この程度の整容性を長期間維持できる手術を常に心がけ、実践し、患者さんからは、「ここで手術してもらって本当に良かった!」、と満足して頂いております。

(スキーム:1)
 (図:8)
(図-9)
 (図-10)

F-2)乳がん手術(形成外科重点系)
【同時 or 異時性 充填再建術】

しかし、これらの手術手技でも乳房の欠損領域が大きく、整容性を確保できない症例では、自家組織の一部を使う広背筋脂肪弁同時充填再建術(LDATF)(文献:①、②)を、患者さんの希望に応じて行っていく予定です。筆者が開発したこの同時再建術の最大の特徴は、腋窩切開の手術創のみから、乳がん摘出と広背筋脂肪弁の同時充填術ができることです。従って、広く施行されている従来法のように、背中には一切の傷もつかず、背中のへこみもわからなくなるため、大学時代にこの手術を施行した多くの患者さんからは、「術後、友人と温泉やプールにも行ける」と、喜んでいただいております。(図-11) 
また、近年保険収載された、「TE+インプラントによる乳房再建」は、当院でも資格のある乳腺外科医と形成外科医がいるため実施可能です。しかし、自家組織でない異物を入れる抵抗感や数年を越える長期間の左右対称性や耐久性が維持できているか、また、このインプラントに関連するBIA-ALCL(乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)などのリンパ腫発症の原因不明など、多くの問題点が解決されていないため、希望される患者には、インプラントの「益」と「害」の十分な情報提供を行い、その上で、慎重に症例を選んで行います。

 (図-11)

F-3)乳がん手術(理論系)
【術前化学療法 or 術前ホルモン療法後の手術】

また、2-3cmを超えるような大きな腫瘤の乳がんの場合には、術前化学療法(PST)か、術前ホルモン療法(PHT)で腫瘍を十分に小さくしてから乳房温存手術を行っています。下記の症例では、7cmの大きな乳癌が、PST後に、内視鏡補助下温存手術を施行でき、幸いなことに、整容性が確保できただけでなく、病理所見では、乳癌は完全に消えており、切除リンパ節にも転移は存在しませんでした。
(現在、手術後、15年を経過しているが、再発・転移も一切なく、手術直後と同じ、整容性の高い乳房の形状・大きさ・柔軟性を維持している)(図-12)

 PST後の内視鏡補助下乳房温存手術:(図-12)

文献: ①: Video-Assisted skin-sparing breast-conserving surgery for breast cancer and immediate reconstruncion with autologous tissue. Hiroo Nakajima, Ikuya Fujiwara, Naruhiko Mizuta, Koichi Sakaguchi, Yasushi, Hachimine. Annals of Surgery 249(1):91-96. (2009)
:Video-assisted skin-sparing breast conserving surgery for breast cancer and immediate reconstruction with autologous tissue: clinical outcomes Hiroo Nakajima, Ikuya Fujiwara, Naruhiko Mizuta, Koichi Sakaguchi, Yasushi Hachimine, Jungi Magae. Annals of Surgical Oncology(16) 1982-1989 (2009)

F-4) 乳がん手術(進化系)
【 内視鏡補助下乳房温存手術 :VA-BCS 】
【 乳癌ラジオ波焼灼治療(RFA) 】

内視鏡補助下乳房温存手術 (VA-BCS ):

従来より筆者らが施行してきた内視鏡補助下乳房温存手術は、保険収載もされていますが、施設によって手技も異なるため、認可されている施設は限られています。また、その手技の詳細・長期成績については、下記の如く、peer reviewの厳しい海外の論文でも認められているので、解説は省略いたします
また、成書として金原出版より、「鏡視下乳腺手術の実際」が出版されていますので、ご購読下さい。

【文献③、④】 この手術は、内視鏡補助下で腋窩や乳輪縁からの小切開によって安全かつ確実に乳がんを摘出し、「根治性+整容性」を長期間確保できる成績が500例以上の症例で証明されています
文献③: 内視鏡下乳房温存手術の長期成績. 中嶋啓雄、藤原郁也、水田成彦、阪口晃一、鉢嶺泰司、中務克彦、
市田美保、大橋まひろ. 日本臨床外科学会雑誌 69(10) 2454-2. (2008)、
:Clinical outcomes of video-assisted skin-sparing partial mastectomy for breast cancer and immediate reconstruction with latissimus dorsi muscle flap as breast-conserving therapy. Nakajima H, Fujiwara I, Mizuta N, Sakaguchi K, Ohashi M, Nishiyama A, Umeda Y, Ichida M, Magae J. World J Surg. Sep;34(9):2197-203. ( 2010) 】

乳癌ラジオ波焼灼治療(RFA):

この治療法は10数年以上も前から、十数名の乳腺外科医が「乳癌低侵襲治療研究会」を基盤にして、様々な研究・臨床試験を行い、ようやく先進医療Bの症例解析、患者申出療養制度の推進などを経て、保険収載に向けての地道な努力が続いております。基本的には、「長径1.5cm」以下の乳癌が適応となりますが、今後は長期成績の確実性と乳腺病理医の十分な理解が得られれば、保険収載の日も近いのではと思っております。筆者も当初より研究は地道に進めてきており、文部科学省からの補助金もいただきました。

(研究助成:①:早期乳癌に対するラジオ波焼灼療法(RFA)の病理学的判定基準の開発;50万円;文部科学省 )

F-5) 乳がん手術
【腋窩リンパ節制御;センチネルリンパ節生検(SNB)】

センチネルリンパ節生検(SNB):

乳がんは、大きくても同側の腋窩リンパ節に転移しない非浸潤性乳管がん(DCIS)と、小さくても腋窩リンパ節に転移する可能性のある浸潤性乳管がん(IDC)、小葉癌(ILC)に大きく分けられます。IDCにおいて、一番最初に転移していく腋窩リンパ節がセンチネルリンパ節(SLN)です。手術中にそのSLNを1~3個だけ摘出して、がん細胞の1個単位で転移があるかないのかを検出する手技がセンチネルリンパ節生検(SNB)です。この手技には様々な方法がありますが、当科では、世界の標準手技である「RI+色素法」(図-13)を行っております。摘出したリンパ節は、術中に迅速凍結切片を作成・染色して、乳腺病理医が診断、転移の有無を手術中に術者に報告します。転移がなければ腋窩リンパ節の追加郭清(ALND)は省略します。また、「転移が2mm以下の大きさで2個まで」なら、この場合も省略します。しかし、2mm以上の転移巣を作っていれば、追加のALNDを行います。このように、他のがん治療同様に、乳腺外科医が重点を置く1つの分野が、「手術中の迅速病理診断」です。この病理診断が手術中に正確に行えないと、その先の治療方針や術後補助療法も間違ってしまうからです。その点、当科の乳腺チームには、専属の「乳腺病理医」が、センチネルリンパ節の転移の有無だけでなく、切除部位のがん浸潤の有無までを、手術中に迅速に診断してくれます。このように「外科医+病理医」が一体となって、1人の乳がん患者の手術を完結することで、本当の安全・確実な「乳がん手術」が完成します。手術後は、摘出乳がん組織の緻密かつ精度の高い標本マッピングも、同じ病理医が一貫して行うことで、安全・確実な術後の治療方針を決め、患者さんに説明します (スキーム:2)

 (スキーム:2)
 (図-13)

F-6) 乳がん手術
【乳管腺葉区域切除術:DLS】

乳管腺葉区域切除術(DLS):

血性乳頭分泌は悪性疾患の可能性が高い重要な臨床所見であり、その治療には病巣の完全切除が必要です。しかし、必要十分な切除範囲を容易に特定できない血性乳頭分泌症例に対しては、その確定診断と治療を同時に行える乳管腺葉区域切除術(DLS)が有効となります。当院では、その責任乳管腺葉のみを確実に低侵襲で切除できるリアルタイムの「ICG蛍光手術法」(図-14-①、-②)を用いて行っています。この方法を用いることにより、現在まで、乳房の変形や、その切除乳腺の10%前後には合併するとされている非浸潤癌(DCIS)を取り損なう失敗や再発は1例もありません。

 (図14-①)
 (図14- ②)

G-1)  乳がんの補助療法 (ホルモン療法・化学療法 )

乳がんの治療は手術をすれば終わりではありません。乳がんは、先述したように、手術前に、大きさやリンパ節転移の有無と同時に、ホルモンレセプター(ER、PR)やHER2タンパク(HER2)の発現、さらには増殖スピード(Ki-67)に応じて大きく5種類のサブタイプに分けられます。手術で摘出した標本の病理診断では、「WHOの乳がん取り扱い規約」にもとずいて、核の異型度、脈管侵襲、リンパ管侵襲の有無や、その程度を表すスコアによる病理学的分類と、先の図で示したサブタイプを組み合わせて、「手術後に何の補助療法も行わない場合の再発・転移確率」を割り出し、そのパーセントに、「患者さんの体力+重篤な基礎疾患の合併の有無」を重ね合わせて、その患者さんに最も適切で安全な術後補助内分泌化学療法を決定します。そして、その治療が、①:ホルモン療法単独(ET)、②:化学療法±ホルモン療法(ET+CT)、③:抗HER2療法±化学療法±ホルモン療法、④:抗HER2療法±化学療法、⑤:化学療法+免疫抗体療法、⑥、化学療法のみ、のどれなのかを決定・提案して、それぞれの作用、副作用を丁寧に説明します。この補助療法の目的は、将来の再発・転移を防止するためです。その決定には、日本乳癌学会が2年毎に改定する「乳がん診療ガイドライン」と「NCCN」の治療指針を原則として判断基準とします。また最近では、その治療成績が最も悪いとされるトリプルネガティブ乳がん(TN)に対しても、抗PDL-1抗体+タキサン系抗がん剤(nab-PTX)が奏功するという結果が報告され、加えて新たな種々の免疫療法も良好な臨床成績が報告されています。当科でも、抗がん剤の副作用を大きく軽減する支持療法の発達のおかげで、化学療法が必要なすべての乳がん患者の化学療法をがん化学療法看護認定看護師が中心となって行っており、これまで1例も大きなトラブルや事故はありませんでした。そして何より、どの化学療法も大規模な臨床試験の結果に基づいて行っているため、年々症例数の増加とともに(図-14)、無再発生存期間(RFS)もどの症例でも確実に延長してきています。その背景には、外来化学療法チームの存在があります。医師の説明に加え、外来化学療法チームの看護師たちが、患者さんにとって脱毛など最も不安な副作用、医療費、ご家族への説明、女性にしか相談できないことなどを、気軽に話し合いさせて頂きます。明るく穏やかに化学療法がすすめられているように思います。最近では、「良くなってきている、治ってきている!」と、患者さん自身が自信を持たれる様子で、笑顔で帰っていかれる患者さんを微笑みながら見送っています

G-2)  乳がんの補助療法 (分子標的療法・免疫療法)

 (図-14)

H )  乳がんの再発・転移 ( エンドポイントはどこにあるのか?)

乳がんは早期で発見されて 標準治療を行えば、10年生存率90%を超えます。しかし、依然として、年間に12000人以上の患者さんが亡くなられています。これは、乳がんの臓器転移が原因なわけですが、ひと昔前までは、治療経過の中で臓器転移を発症すれば治らないと考えられてきました。従って、下図(図-15)の如く、数千人を対象にした「日本対がん協会アンケート:2019年」の結果でも、がん患者の相談件数の第1位は、「再発・転移などに対する不安」です。しかし近年、HER2陽性の乳がんでは、坑HER2薬(tarasutuzumab, pertuzumab, trastuzumab emtansine)の登場によって、完全寛解(CR)する症例も珍しくなくなってきました。また、最近登場したホルモン(HR)陽性HER2陰性乳がんに対するCDK4/6阻害剤は、坑HER2薬以来の奇跡とも言われている薬剤であり、副作用も軽微で、うまくフェソロデックス(FSL)やAI剤(アロマターゼ阻害剤)と組み合わせると、無再発生存率(RFS)だけでなく全生存率(OS)をも伸ばすという結果が報告されてきています。これらの結果は、再発・転移した症例でも、治療を諦めずに、進歩・進化を続ける現代医学を信じて、医師やチームスタッフの治療や助言をもとに、治療を続けて行えば、十分なQOLを保ちながら、完治することも夢ではない時代がきていることを確信しています。

 (図-15)
I ) 乳がん検診と要精密検査:

視触診に代わって、マンモグラフィを日本に導入し、日本各地を回って「マンモグラフィ講習会」で、その読影法や乳がんのカテゴリー分類を指導してきた先輩諸氏の努力、さらには「マングラフィ精度管理中央委員会」のたゆまない啓蒙活動が身を結んで、今では日本全国どこでもマンモグラフィ検査が受けられるようになり、その受診率も一部地域を除いては30~40%を超える水準に到達しています。一方、その成果とは相反して、成人女性の乳がん罹患率も2019年には90000人を超え、成人女性のがん罹患率の第一位になってしまいました(図-16) また、乳がん検診の本来の目的である「乳癌死の減少!」は、まだ顕著な効果を得られず、年間に15000人以上の患者様が亡くなられています(図-17)。この死亡者数を減少させるために、「早期発見・早期治療」を謳うピンクリボン運動などの啓発活動が毎年行われていますが、まだ死亡者数減少には満足のいく効果は出ていません。この死亡者数を1人でも減らすためには、乳がん検診の結果表で「要精密検査」と手元に届いたら、できるだけ速やかに「乳腺専門医」が常駐する医療機関か、乳腺外科の経験が深い外科医がいる医療機関に受診することが重要です。乳がんの初期から中期にかけては、痛みなどの症状がほとんどないのも乳がんの特徴ですから、つい後回しにされる患者さんが多いように思われます。また、「もし、本当に乳がんやったらどうしよう」と悩んでいるうちに、月日が経ってしまうケースも多いようです。どうか、「勇気を持って受けよう、乳がんの精密検査!」を心掛けて頂きたいと思います。なぜなら、精密検査によって、もし乳がんでなかったら、その安心感は笑顔を取り戻します。あるいは早期の乳がんならば、助かる可能性が非常に大きくなるからです。

 (図-16)
 (図-17)