研究活動

悪性腫瘍新規治療法開発研究部

悪性骨軟部腫瘍は、小児・若年者(AYA世代)に多い希少がんです。1970年代に化学療法が治療に導入されて5年生存率は改善されましたが、その後30年間は大きな改善がありません。最大の原因は、遠隔臓器転移を起こした症例に対する有効な治療法が確立されていないことにあります。そのため、転移症例に対する新規治療法の確立が切望されています。

悪性腫瘍が遠隔臓器に転移するとき、①原発巣から周辺組織への浸潤・原発巣からの離脱→②周囲リンパ管・血管へ侵入→③リンパ流・血流内での生存→④遠隔臓器の血管床への付着→⑤血管からの脱出・遠隔臓器への侵入→⑥遠隔臓器内での増殖、という多段階のステップを踏みます。

これまでに、下記のような新たな知見が見つかりましたが、それでも抗転移薬の開発は難しいのが現状です。

  • 腫瘍が周囲組織へ浸潤するときは、単独ではなく集団で移動すること。そのメカニズムは単独で移動する時とは異なること。
  • 血流内では腫瘍は血小板や免疫細胞と集合し、生き延びていること。
  • 遠隔臓器で増殖するまで長期間休眠状態になることがある
  • 転移先からさらに転移すること
  • 腫瘍が転移する前に転移先の臓器を転移しやすいように準備している可能性がある

骨肉腫には、他の骨軟部腫瘍と異なり原因となる遺伝子変異が同定されておらず、分子標的療法の開発が遅れています。多くの基礎研究を元に、この10年間に米国ではEzrinに対する分子標的薬、ミファムルチド(L-MTP-PE)、GM-CSF吸入療法などが抗転移薬として臨床試験されましたが、有効性は確認されませんでした。
我々は、化学発癌によりC3Hマウスに発生した骨肉腫から樹立された細胞株Dunnを用いて、生体マウスを使用した高転移株の選択(Fidler-Poste法)を繰り返し高肺転移株LM8を樹立し、マウス骨肉腫肺転移モデル(LM8-Dunnマウスモデル)を確立しました。このモデルでは、C3Hマウスに皮下移植すると親株Dunn細胞は腫瘤を形成するが肺転移を起こさず、LM8細胞は腫瘤を形成するとともに3-4週間で広範な肺転移を生じます。

このモデルの解析を通して、我々は以下の点を明らかにしてきました

  • 高肺転移株LM8ではRho-GTPaseのCdc42活性依存的に細胞運動が亢進し、樹状突起の形成に依存する細胞運動を行うこと。
  • MMP-2産生、細胞運動亢進、アノイキス抵抗性、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生は腫瘍血管内侵入の増加、血中循環腫瘍細胞(CTC)を増加につながっていること。
  • トポイソメラーゼI阻害剤がCdc42活性および細胞運動を抑制し、肺転移抑制効果が得られること。
当研究部門の課題

  1. 新規抗転移療法スクリーニングシステムの開発
    LM8-Dunnマウスモデルにmicro-CTによる画像解析を組み込み、腫瘍転移時期、肺転移に伴う肺組織線維化、悪液質形成を経時的に解析し、抗転移薬候補薬剤の作用機序の詳細を明らかにします。
  2. 腫瘍外因子と腫瘍の相互作用が転移に与える影響の解析
    LM8-Dunnマウスモデルを用いて、骨肉腫肺転移を規定する腫瘍外因子を包括的に解析します。転移を起こしやすい解剖学的位置、転移と肺胞、肺内血管の位置関係などをmicro-CT画像解析、組織病理解析を通して、経時的、定量的に解析します。
  3. 転移過程を生物学的観点から
    LM8−Dunnマウスモデルはその成立過程から、肺内での増殖能が優位なものを生物学的に選択した結果と考えられます。この系はオリジナルのFidlerの発表から40年を経過しましたが、まだ不明な点が多く残されています。
    • 高転移細胞は、オリジナル細胞集団に遺伝子変異が追加されているのか?
    • 高転移細胞は、最初からオリジナル細胞集団に存在していたのか?
    • 転移巣での増殖優位性のみで、原発巣からの転移可能性が決定されるのか?
    • 同一腫瘍の高転移細胞は、一つの表現型しか持ち得ないのか?
    • 尾静注と皮下移植で転移巣成立過程は同一であるか?

研究部門では、LM8-Dunnマウスモデルを深く掘り下げることで、転移メカニズムの本質的理解を目指します。

参考文献
  1. Poste and Fidler. Nature 1980
  2. Asai et al. Int. J. Cancer 1998
  3. Sotobori et al. Exp. Cell Res. 2006
  4. Yui et al. Clin Exp Metastasis 2010
  5. Tanaka et al. Clin Exp Metastasis 2013

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