研究活動

免疫システム研究部

概要

免疫系とは、細菌やウイルスなどの病原性微生物から体を守るために備わっている「疫病から免れる」ための仕組みである。ワクチン接種は、特定の病原体(抗原)に対する免疫応答性を亢進させる手法であり、今日でも最も有効性の高い医療の一つである。さらに、免疫系は、感染症以外の数多くの疾患にも深く関与していることが知られている。膠原病・自己免疫疾患は自分自身の体の成分を標的とする異常な免疫応答が原因となる疾患であり、アレルギーや炎症性腸疾患は花粉や食物、腸内細菌など無害な抗原に対する過剰な免疫応答が原因である。近年では、癌に対する免疫応答を亢進させる医療(オプシーボなどの免疫チェックポイント阻害剤)が、画期的な治療効果を示すとして、特に注目されている。一方で、このような分子生物学的手法に基づいた免疫学研究およびその臨床応用の目覚ましい進歩にも関わらず、眼前の患者さんに対する薬剤の効果を的確に予測し、その免疫応答をコントロールすることは依然して困難であり、医療費高騰の一因になるとも懸念されている。本研究部門では、免疫制御の仕組みの本質(原理)を解明し、その原理に基づいた治療戦略を立てることができれば、種々の難治性疾患の免疫応答を自在に操作できるようになるとの信念のもと、この難題に腰を据えて取り組んでいく。

制御性T細胞による免疫抑制機構の解明を目指した理論研究とその動物モデルへの応用

免疫系の本質は、感染時には抗原に応答性の高いリンパ球が選択的に急速に増殖する一方で、健常時には抗原に応答性の高いリンパ球の増殖は抑制されリンパ球の多様性を維持する点にある。健常時に過剰・不要な免疫応答を抑制する上で必須の役割を担っている細胞群として、転写因子Foxp3を特異的に高発現するCD25+CD4+制御性T細胞がある。この制御性T細胞を特異的に除去することができれば、腫瘍免疫応答は活性化され、自己免疫病も誘導される場合がある(文献1)。制御性T細胞は、免疫抑制性分子CTLA-4を高発現する一方で、T細胞増殖を促すサイトカインIL-2を産生しないため、抗原刺激を受けても活性化されず、増殖応答を示さない。また、自己抗原に対する応答性が他のT細胞に比べて若干高いために、予め活性化された状態にあることで、周囲の未刺激のT細胞の活性化を阻害することができる(文献2)。制御性T細胞による免疫制御の過程を、微分方程式の形で表現することにより、免疫応答を決定づける上で重要な過程の全貌が明らかになりつつある。これらの過程に介入する手法を用いることで、疾患モデルマウスにおける免疫応答を自在に操作できる新規手法を開発する。


図1 免疫制御機構の概念図

抗原に暴露された場合に免疫系が免疫応答(水車が左回転)に向かうか、免疫寛容(右回転)に向かうかは、複数の因子と偶然により決定される。免疫応答を強める手法としては、左回転を強める因子(自然免疫や炎症性サイトカイン)、右回転を抑える薬剤(免疫チェックポイント阻害剤)やその他、いくつか考えられる。

【論文】
1. Yamaguchi, T., K. Hirota, K. Nagahama, K. Ohkawa, T. Takahashi, T. Nomura, and S. Sakaguchi, Control of immune responses by antigen-specific regulatory T cells expressing the folate receptor. Immunity, 2007. 27(1): p. 145-59.
2. Yamaguchi, T., A. Kishi, M. Osaki, H. Morikawa, P. Prieto-Martin, K. Wing, T. Saito, and S. Sakaguchi, Construction of self-recognizing regulatory T cells from conventional T cells by controlling CTLA-4 and IL-2 expression. Proc Natl Acad Sci U S A, 2013. 110(23): p. E2116-25.

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