研究活動

免疫システム研究部

制御性T細胞がどのように免疫寛容に働いているのか、理論と実験で明らかに

免疫システムは、病原体など外界の異物を認識して撃退する一方で、自分の体に対しては攻撃しない「寛容」の状態を保っている。この寛容を保つためにリンパ球の一種である「制御性T細胞(Treg)」が関わっていることが知られていたが、制御性T細胞がどのようにして病原体を攻撃する正常なT細胞の活動を妨げることなく、自己を攻撃する間違ったT細胞の働きを抑えているのか不明であった。当研究所の山口らは、通常は免疫を抑える制御性T細胞が、強い炎症環境下ではT細胞の増殖を促進することを見つけた。この現象を引き起こす制御性T細胞の新しい働きを解明するために、T細胞と抗原提示細胞の関係に着目した免疫応答の数学モデルを構築するという、新しい手法を用いた。理論シミュレーションも行うことで、制御性T細胞が上手く免疫を制御するためにはどのような作用を持つべきかを調べたところ、制御性T細胞には、周囲のT細胞が抗原提示細胞から離れるのを抑制し、多くの多様なT細胞が抗原提示細胞と接着した状態を維持する働きがあると推定された。実際に、マウスのT細胞全体の数を減らしてみると、免疫した抗原に反応するT細胞集団の割合が上昇し、糖尿病を発症しやすい傾向のあるNODマウスでは自己免疫性の糖尿病を早期に発症した。制御性細胞が全体数をコントロールするという新しい制御理論を提唱している。

【論文】
Yamaguchi Tomoyuki, Teraguchi S., Furusawa C., Machiyama H., T. M Watanabe, Fujita H., Sakaguchi S., Yanagida T.:“Theoretical modeling reveals that regulatory T cells increase T-cell interaction with antigen-presenting cells for stable immune-tolerance.”International Immunology, Volume 31, Issue 11, November 2019, Pages 743–753, https://doi.org/10.1093/intimm/dxz043 This article was selected by the Editorial Board as the Featured Article for the November 2019 issue of Int Immunol

健常な状態では、多数多様なT細胞が抗原提示細胞(APC)と相互作用することでゆらぎの影響が少ない安定状態にある①。感染時には、離れる確率が増加することで、APC上のT細胞の種類は大きな偏りをもつ②。その中には特異的T細胞を含み、制御性T細胞が少ない場合が確率的に生じる③。そうなれば、最も結合力の高いT細胞の独占的増殖という免疫応答へと自動的に移行する④。真の免疫チェックポイントは『解離による減少』にあるとする新しい免疫制御理論。