がん転移研究部
概要
がんは日本人の死亡原因の第1位であり、がん死の大部分が転移によるものと考えられています。そのため、がん転移を制御することは、がん治療における最も重要な課題の一つです。しかし、転移の仕組みにはまだ不明な部分が多く、さらなる研究が求められています。当研究部では、がん細胞が転移する際に、周りの組織を破壊するためにつくる浸潤突起という構造について研究を行っています。また、日本人に多い難治性の胃がんであるスキルス胃がんが、腹腔内の組織に転移するメカニズムについても研究を進めています。本研究によりがん転移の仕組みが明らかになれば、転移を標的とした新しいがん治療法の開発が可能になると期待されます。
浸潤突起の形成機構と血行性転移における役割
浸潤突起は、がん細胞が周囲の組織を壊して移動するためにつくる膜構造です(図1A)。基本骨格はアクチン繊維から成り、マトリックスメタロプロテアーゼなどの細胞外基質分解酵素を集積して細胞外基質を分解します(図1B)。私たちはこれまでに多くの浸潤突起構成分子や制御分子を同定してその機能を明らかにしてきました。また、乳がんが浸潤し、血管内に侵入して転移する際に、浸潤突起が重要な役割を果たすことを示しました(図1C)。現在も新しい制御分子を複数見いだしており、浸潤突起が形成される分子メカニズムを調べています。さらに、浸潤突起の形成を指標とした遺伝子ライブラリーや化合物ライブラリー等のスクリーニングを行うことにより、新しい機能分子や阻害薬候補化合物の探索を進めています。

スキルス胃がん腹膜播種の分子機構の解明と治療法の開発
スキルス胃がんは早期発見が難しく、未だに有効な治療法が確立されていない難治がんです。特に、腹腔内に種を播くように広がる腹膜播種と呼ばれる転移を起こすため予後不良となります。私たちは、スキルス胃がんの腹膜播種を制御する分子機構の解明と治療法の開発を目的として研究を行っています。これまでに、スキルス胃がんで特異的に活性化されるシグナル伝達分子を複数同定しており、腹膜播種における機能と治療標的としての有用性を検討しています。スキルス胃がん組織では、がん関連線維芽細胞の異常な増殖による強い間質増生が起こります。そこで、がん細胞とがん関連線維芽細胞の相互作用について研究を行っており、両細胞間の接着を標的とした創薬開発にも取り組んでいます(図2)。さらに、スキルス胃がん細胞をマルチカラー蛍光ラベルして腫瘍クローン性を可視化し、腹膜播種がどのように形成されるか解析しています(図3)。これらの研究により、スキルス胃がんの生物学的な特性を標的とした、画期的な治療法の開発につなげたいと考えています。



